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山梨県県内の全文化財情報を統合。多様なデータベース機能を搭載した「遺跡情報システム」その結果、資料の説得力が増し、意思決定の確からしさも大きく向上。 文化財保護法の一部改正に先駆けて、山梨県教育委員会学術文化財課では、99年(平成11年)に県内の埋蔵文化財、国・県の指定文化財、その他古い民家や古道などの保護地区・物件に関わる調査・管理資料のデータベース化を計画。翌2000年12月からGISの導入計画に着手し、ほぼ4ヶ月間でMapInfoをベースにした「遺跡情報システム」を構築した。このシステムは、膨大な資料データを地図上で統合するだけでなく、業務上での使い易さと入力作業などの効率性を重視し、徹底的にカスタマイズが施され、大きな成果を挙げている。 将来を見据え徹底したデータベース整備に取り組む全国の自治体では、この数年、遺跡情報の整備に関わるITの導入が急速化している。この背景には、都市計画法と建築基準法の改正(平成12年)に伴い、平成12年4月に施行された文化財保護法の一部改正がある。具体的には、準都市計画区域内の用途地域や特別用途地域、美観地区、伝統的建造物群保存地区などの指定は、市町村が行うとしたもので、それらの当該地区での都市計画を進める際には、あらかじめ当該都道府県教育委員会の意見を聴いた上で、必要な都道府県知事の意見聴取手続きを行うこととされている。これにより、遺跡・文化財と重要な保存地区に関わる認定などの諸手続き、また付近での建設工事などに伴う許可や事前の発掘調査指示など、それまで国が行っていた多くの業務が、県と市町村に移管されることになった。 実際、自治体が管理している遺跡や文化財の情報資料の量は半端ではない。これらの管理・手続きを遺漏なく処理し、且つ県と市町村との間でスムーズな連携を図るためには、GISをはじめITの活用は不可欠といえる。しかし、自治体におけるシステム構築はそう容易ではなく、中には、計画着手から3年、5年とかかるケースも少なくない。 山梨県は、そうした中でもスピーディな対応を果たし、成果をあげている先進的な例の一つである。県教育委員会の主導で、MapInfoをベースにした本格的な「遺跡情報システム」が導入されたのは、平成12年(99年)の12月のこと。山梨県の場合は、その導入に先駆けて、約1年という時間をかけ、徹底したデータベース構築を行っているのである。山梨県教育委員会・学術文化財課埋蔵文化財担当として、プロジェクトを推進してきた小野正文氏(現在は山梨県埋蔵文化財センタ-・資料普及課課長)は、当時の背景について次のように語る。 「山梨県には、現在4805ヶ所の埋蔵文化財があり、その発掘調査の指示書などを発行するための資料として、各市町村ごとの遺跡地図やその概要に関する多種多様な資料があるわけですが、業務に関わる管理資料という意味では、実はこれだけではありません。補助資料として、国・県指定の文化財と、他の古い民家や古道など、指定文化財に含まれない物件と保存地区に関する資料、発掘調査ごとの調査データ、関連書籍、法令・条例など、非常に広範囲な情報・資料が必要なのです。法改正による許認可などの新しい業務に速やかに対応するためにも、単にシステム導入するのではなく、業務での運用や将来的な活用を考慮し、きちんと整備されたデータベースが必要であると判断したのです」 県内の全文化財関連情報をシステム上で完全統合」同学術文化財課では、平成11年よりデータベースの構築に着手し、その約1年後の平成12年後半に、GISの検討を開始した。最終的に、プロポーザル方式で一般公募した中からMapInfoをベースにした「遺跡情報システム」が選択され、平成13年4月から本稼動を開始した。開発に際しては、ベースの基本的な地図とMapInfoを三井造船システム技研が提供し、インターフェース機能や地図データベースなどの開発・調整作業を、第一航業が全面的に支援・協力している。 「正直なところ、代表的なGIS製品であれば、機能的にはどれも大差はないだろうと考えていました。そうはいっても、一方でデータベースの仕様が固まりつつあったので、この膨大な量の資料データを業務の中で効率良く管理でき、且つ使い易いシステムであることが最大の条件でした。さまざまご提案いただきましたが、その中で最も分かり易く、機能や操作性の面でも使い易いと感じたのがこのシステムだったのです。実際、決定から約4ヶ月間という短期導入でしたが、システム的な要件はほとんど満たしていますし、統合データベースもほぼ完成です。結果には大変満足しています」
【第1部】 県内の4805ヶ所の遺跡包蔵地の基礎情報(市町村名・遺跡名・管理番号・面積や緯度経度情報など)を市区町村別に統合。管理番号や遺跡名などのキーワードと地図からの双方向検索が可能。さらに、関連する文献、遺跡抄録データベースを統合し、既発掘遺跡の全体図や出土品等のデータの参照・入力などができる。 【第2部】 遺跡情報に関連した補助資料として、学術文化財課で管理されていた昭和41年度以降の発掘調査の届出書類データ2242件。その他、遺物の認定書類(1365件)データ、遺跡文献(60000冊中の約44000冊)のカード型データベース、文化財保護に関する法令・条例および様式データなどを統合。MS Excelなど他の汎用ソフトからのデータ入力やスキャナーでの画像取り込みなど、業務との相互連携を図るための補助機能を搭載。 【第3部】 国・県指定文化財(613ヶ所の名称・種別・指定年月日・市町村名等)、史跡名勝天然記念物(192ヶ所)、その他の歴史の道、県指定の貴重な民家や寺社建築物、地質鉱物、行事など多様なデータベースを地図に直接リンク。地図画面のアイコンなどをクリックするだけで簡単に情報を検索・参照できる。また写真や図面の重ね表示、手作り地図などの作成が容易にできるよう、独自のレイヤー管理と地図作成機能を搭載。 このシステムは、とくにインターフェース部分が非常に見易く使い易いと好評である。操作用のボタン一つをとっても、GIS製品にありがちな難しい用語などはほとんど見当たらない。表示サイズや文字サイズが大きく、一目でわかるような機能名が表示されている。またレイヤーの管理機能にも大きな工夫があり、多数の基本図を使って表示・非表示を切り替えたり、作図なども簡単にできるように、地図画面の脇にレイヤーとツール操作のための専用パネルが表示されるようになっている。 ■地図データベースを活用し市町村向けにフリーの地図ソフトを配布 「何しろ、机一杯に地図を広げる必要がなくなり、それだけでも作業が大変楽になりました。発掘調査の指示書作成や、建設計画などに際して発掘調査が必要かどうかを判断する上では、必要な資料は遺跡の分布地図だけではありません。例えば、富士山や武田信玄所縁の土地など、物件によって建物を建てられる場所とそうでない場所の細かな規制があり、それぞれA種・B種・C種といった何段階かの規制地域に分かれているのです。工事計画などがあると、その規制に沿った指示書が必要になるので、その都度、大きな地図を広げて位置を確認し、その部分を拡大コピーした上で手作業でマーキング、さらに必要な書類を作成して地図を切り貼りするといった具合に、大変な作業だったわけです。それがいまでは、こうした規制地域地図や写真などのスキャナ取り込みをはじめ、システムを使って画面上ですべて処理できるようになり、業務効率も大幅に向上しました」 山梨県教育委員会では、この「遺跡情報システム」で構築した独自の地図データを活用し、県内の市町村向けに、CD-ROMによる使用権フリーの遺跡情報検索を目的とした地図ソフトの配布を計画している。これは、市町村レベルで管理している発掘調査や関連業務の支援と横連携を目的としたもので、出きるだけ早期に、最新のデータを搭載した上で配布を実施する予定だ。また現在システムはスタンドアロン形式で使用されており、学術文化財課とその関連部門の約8名の担当者が使用するにとどまっているが、将来的には、他の部門間との地図データの共有化を実現していきたいと小野課長は語る。今後、部門間で調整を行いながら、そうした幅広い業務での活用を検討していく方針である。 山梨県埋蔵文化財センター
MapInfoパートナー紹介第一航業株式会社
三井造船システム技研 株式会社
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