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墨田区役所 都市計画部防災・災害対応の両面から施策立案を支援墨田区土地利用解析システム 防災と災害対応”と言葉にするのは簡単だが、自治体がその効果を期待できるような具体的施政を実施するのは決して容易なことではない。住民との相互理解と協力はもちろんのこと、地域特性の正確な把握と、膨大な情報分析が必須になるからだ。こうした施策立案と事業推進に「GISは不可欠である」と指摘するのは、東京都墨田区である。同区では、79年(昭和54年)に“防災都市づくり”を目的とした長期事業計画を打ち出し、さまざまな方面から注目を集めている。その施策の立案や効果分析を行う上で、MapInfoが大きく貢献している。 「逃げないですむ燃えないまちづくり」計画への取り組み関東大震災、そして東京大空襲と2度にわたる壊滅的ダメージを受けた東京都墨田区では、災害に強い“防災都市づくり”を実現するため、79年に「逃げないですむ燃えないまちづくり」計画を打ち出し、以来、防災・災害対応を目的とした長期事業に取り組んでいる。この事業は、全国でも初の本質的かつ実質的な施策として、81年、正式に国庫補助の対象事業に認められた。具体的には、建築・建設事業を推進する都市計画部と、地域の整備や市街地の再開発事業などを推進している都市整備担当部の2つの部門が主導となり、町並みの「不燃化事業」を推し進めている。「行政として災害時に迅速に対応するためには、むろん正確な状況把握が必須です。具体的にどういう間取りの建物がそこにあって、誰が何人住んでいたかといった詳細な情報が必要になるわけですが、例えば、地震や大火災などで建物が瓦礫と化し、目印になるものすらなくなってしまっているという状態では、調査しようにもやりようがない。とくに、昔ながらの居住者が多く、古い木造家屋が密集する地域では、敷地境界や土地登記の内容そのものが明確ではないケースが非常に多いんです。つまり自治体は、万一に備えて土地・建物などの現況図と、さらに居住者の情報も同時に参照できるような資料を予め作っておかなくてはならないのです」(建築指導課担当主査:当時の住宅課不燃化推進係係長) データの切り出しや複雑な領域計算を素早く処理。幅広い用途に対応する「墨田区土地利用解析システム」SMDは、MS-DOSベースのシステムで、88年の都の基礎調査データをベースに、区独自の土地利用現況調査データを職員が自力で入力。現在は、隔年ごとにデータ更新を行っている。 その後、これらの詳細な地図情報を利用し、多角的分析や解析などができる、本格的なGISが必要であるという判断から、97年にMapInfo® Proをコアとした新しい「墨田区土地利用解析システム」を構築した。 「不燃化事業を推し進めていく上では、施策をいろいろな角度から検討できるだけでなく、その効果を地図上で評価したり、分析やさまざまな形で表現できる機能が必要でした。また阪神・淡路大震災以降、区としても政策見直しを図ろうということで、96年9月に若手とベテラン職員でワーキンググループを編成し、情報ツールの活用や効果について勉強会を実施しました。その中でGISについてもいろいろと検討を行いました」 いくつかのGIS製品を検討した中で、分析などの多機能を備えながら、技術者向けではなく一般業務でも比較的使い易い、カスタマイズも容易、といった理由から、最終的にMapInfoが選択された。システムの開発を支援したのは、アルプス社のアライアンスパートナー、三井造船システム技研株式会社の代理店、第一航業株式会社(東京都杉並区)である。 「不燃化事業」とは、とくに道幅が狭く、木造家屋が密集する地域などを対象に、万一ある地区で大火災が発生しても他の地区への延焼を防ぐよう、避難路、避難地の周辺の建物を、延焼遮断帯として燃えにくい建物に徐々に建て替えていこうというものである。また同区では、国の制度に先駆けて該当する建物の建て替え促進に助成金制度を導入。こうした、効果促進のための多角的な取り組みが注目の的となっている。 新しい「墨田区土地利用解析システム」は、そうした当該エリアの地図の切り出しを行って、延焼遮断帯となる空き地面積率を計算したり、助成金対象となった建物を抽出するなど、複雑な領域計算(不燃化領域計算)を得意とする。素早く、しかも比較的簡単な操作で処理できるのが特徴で、これによって「従来、1週間もかかっていた計算処理が、たった5?10分で結果を出せるようになり非常に便利」、と都市計画課担当主査は語る。 また、SMDとのリンクにより地図情報を共有できるほか、現在東京都が運用している「東京都都市計画地図情報システム」のデータも格納している。これによって、用途地域ごとの指定建ぺい率や指定容積率計算、防火・高度地区計算、公共施設や路線・駅名、属性情報などによる地図検索、土地・建物の用途別解析と集計など、非常に幅広い情報活用に利用することができる。 地籍情報などを効率良く管理できるGISはこれからの自治体に必須「何より、住民への説明会用資料として、都市計画図ではなく、もっと分かり易く表現したものを作りたかった。MapInfoは、レイヤの表示を変えて事業の実施前後の状態を図形やパターン化するだけで、さまざまな資料を簡単に作成できるので、理解促進にとても役に立ちます。ただし、利用を拡大するには、システム的に解決すべき問題も残っています」(建築指導課担当主査)「東京都都市計画地図情報システム」は、平成3年に都が独自に開発したワークステーション(WS)で稼動するGISで、都の業務向けに開発されているため街区情報がなく、1/5000と地図の精度も低い。また独自フォーマットを採用しており、他のシステムで利用するためのデータ変換は、情報量が膨大なため大変手間のかかる作業なのである。 「国・都・区が連携し、一体となって都市計画を推進していくためにも、まず地図データそのものの共有化が必要です。ですから、地図データ標準を心待ちにしています」(同主査) 自治体における行政業務支援には、都市計画基本図と、住宅地図の両方をカバーするシステムが必要である。それと同時に、基盤となる地図データや行政情報も、横方向にスムーズに連携できなくてはならないのである。 これからの自治体にとっての課題を、都市計画課担当主査は次のように指摘している。 「防災と災害対応の両面で具体的な施策を立てるためには、土地登記などの地籍情報の管理が非常に重要です。また土地・建物などの権利関係も明確にしておかなくてはならない。そうした情報を事前に整備しておくことは、自治体としての義務です。システムの普及には、予算や受け入れ側のスキルの問題など課題が多いのは事実ですが、DBと地図を効率良く管理するツールとして、MapInfoのような汎用GISは必須になってくると思います」 墨田区では、2001年(平成13年)10月に「墨田区行政情報化推進計画」を策定し、その重点事業の一つとして「統合型GISの整備活用」を位置付けた。 「今後、都市計画、建築行政、道路管理、まちづくりなど、複数の地理的情報を電子化することによって、統合型GISを利用した業務支援システムを構築するとともに、部内の情報について庁内での情報共有化を促し、質の高い政策指導型のまちづくりを実現したいと考えている」と意欲的である。統合型GISの整備に向け、また一つ新たな取り組みが始まったようだ。 東京都墨田区都市計画部都市計画課
MapInfoパートナー紹介開発担当:第一航業株式会社
三井造船システム技研 株式会社
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