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西宮市役所

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進化する行政IT実現への道程災害対応・業務支援・多様な住民サービスの統合を実現した行政情報基盤

阪神大震災により致命的な被害を受けた西宮市は、被災直後、行政として素早い対応を見せ、当時注目を集めた。現在同市は、大規模な統合システムによる行政情報基盤を構築しており、実にさまざまな形で地図を多用した行政サービスを提供している。これらのシステム開発の背景には、大震災による経験と教訓、そして独自のノウハウを確立するまでの長い道のりがあった。今回は、その全貌を紐解いてみよう。

震災直後、余震の中で続けられた開発作業

兵庫県西宮市における行政ITとGIS活用への取り組みは、1995年1月17日、空前の被害をもたらした阪神大震災と、その被災直後における行政業務を陰から支えた「震災業務支援システム」を抜きに語ることはできない。

大阪と神戸のほぼ中間に位置する西宮市は、被災地域のほぼ中央にあたり、神戸とならび致命的打撃を受けた地域の一つである。そして、震災直後、約1日半という驚異的な速さで基幹系業務システムの復旧を成し遂げるや、すぐさま被災者証明書の発行や義援金交付を開始するなど、行政として被災者支援に迅速に対応した唯一の自治体でもある。

被災直後、絶えてはまた繰り返す余震と大混乱とで、誰もが仕事どころではない。しかしそんな中で、一日も早い被害状況の把握と被災者支援を実現するため、夜を徹してシステムの復旧と開発に取り組んだ人達がいた。西宮市情報システム課の課長(当時課長補佐)・吉田稔氏を中心とした十数名の職員である。そして、潰れかけ、修理されたメインフレーム、瓦礫の中から辛うじて救出された計23台のPC端末とWS、生き残ったLAN回線などを使い、新たに開発されたのがMapInfoを利用した「震災業務支援システム」だ。

(西宮市情報システム課 課長 吉田稔氏) 「迅速且つ正確に情報を収集・発信するための基地であるはずの対策本部自体が、情報が錯綜し命令系統が定まらず、本来の機能を発揮できない状態に陥っていました。しかも、緊急で重要なことが山ほどあるにも関わらず、混乱の最中だったので最初から情報システムを活用できると気付いた人は皆無であったように思います。周囲の協力を得て、半ば速攻・独断的に作業に取りかかったわけですが、それでも最も必要とされる被災者の安否情報と緊急物資の確保については後手に回り、非常に歯がゆい思いをしました」

当時、まともな連絡手段すらないという状況下で、何割かのLANとPCが生き残ったことは唯一の救いだった、と当時の様子を振り返り吉田氏は語る。

被災者証明書の発行・義援金交付など被災者支援に迅速対応

災害時に、その後の対応が遅れる最大の要因は、状況把握の難航である。災害の規模が大きければ、それだけ避難所の数も増え、住民の所在確認や被害状況の把握は困難になる。大混乱の最中では、死者・負傷者の身元確認にしても、遺族や近所の人による聞き取り調査に頼るしかない。手作業で、しかも姓のみやカタカナ表記だけでリストをまとめるため、死亡届を出せないばかりか、安否も確認できない状況になるからだ。

阪神大震災では、死亡届なしで火葬できる特例が認められたことから、名前や住所が不明のまま報告された犠牲者が続出した。同姓同名の人、市外から来ていて犠牲になったケースもあり、各地域とも手作業による照合は難航を極めた。西宮市でも、情報システムが復旧するまでのわずかな間に千人を超える死者が報告されていた。

被災後2日目、吉田氏をはじめとする情報システム課の職員らは、住民基本台帳を管理していたメインフレームの復旧を成し遂げ、即座に住民の全件リストの打ち出しを開始した。照合の結果、予想通り重複や誤りが相次いで判明。1月25日には、バッチ処理による被災者データのアップを開始し、数日間はこの被害状況データの変更・修正作業に追われた。

そして2月1日、被害のあまりの甚大さに、福祉業務担当から被災者の支援業務全体に充分対応するオンラインシステムを至急構築したいとの依頼を受ける。そこで吉田氏以下スタッフは、すぐさま新しい「震災業務支援システム」の開発に取りかかったのである。

MapInfoを活用した大規模システムが支援業務で効果を発揮

(建物構造図) 最初のシステムは、被災情報(被災住所・家屋被害状況など)、世帯員情報(氏名・性別・生年月日・年齢・人的被害状況など)、被災証明書発行記録(発行日・発行時点の家屋被害など)の3種類のデータベースが連携するオンラインシステムで、これを約1日半で完成。以後、第一次・第二次義援金、災害援助金貸し付け、住登外者処理のシステムなどを追加していった。どの業務システムも、本番運用まで10日前後という超短期開発である。

「震災業務支援システム」は、ホストコンピュータ、WS、避難現場や庁舎外の業務窓口などに設置されたPCが、LANを介してリモートおよびローカルで接続されたエンタープライズ・システムである。

被災者証明書の発行など、現場での本格的な支援が可能になったのは2月13日のこと。
この時点で、大きく

  1. 被災者支援システム
  2. 復旧業務支援システム
  3. その他の避難所関連・慰霊祭関連PCシステム
の3つで構成されるコア部分がほぼ完成した。

その後、難航・拡大する業務をカバーするため、システムはさらに拡張され、最終的に計23項目もの業務に対応する大規模システムが出来上がった。完成したシステムは、分類すると、

  1. 被災者支援
  2. 避難所関連
  3. 緊急物資管理関連
  4. 仮設住宅関連
  5. 倒壊家屋関連
  6. 復旧・復興計画関連
  7. 慰霊祭・追悼式関連
  8. 災害対策ネットワーク
の8つの主要部分で構成されている。

特徴は、各業務のニーズに応じて、MapInfo® Proによる地図機能をさまざまな形で利用できる点だ。地図データとしては、独自に構築したオリジナルのベクトル地図を搭載した。街区地図、町丁目地図、住宅地図などをベースに、ホスト上の住民データや被災状況データを地図上に展開。それを、現場や業務窓口などローカル/リモートのクライアント用に開発した新しい地図ソフト上にインポートし、例えば、避難所や仮設住宅の分布図、全壊した家屋・世帯状況図、危険度判定分布図などを素早く作成、そのまま配布利用できる仕組みである。

このシステムは、現場における支援活動や緊急対策の意思決定支援に活用されただけでなく、その後の仮設住宅に関する地図や情報配信、メールサービスなど広く情報ツールとしても威力を発揮した。現実の災害現場の中から生まれた、まさに真の緊急災害対応システムである。

昭和50年にGIS開発をスタート「西宮市1/2500地図」を独自に構築

現在の西宮市は、独自に構築した大規模なイントラネットにより、行政情報化と地域情報化事業の両側面でGISを活用した多角的な展開を図っている数少ない自治体としても知られている。

西宮市と、行政ITとしての地理情報システムとの出会いを振り返ってみると、昭和50年(1975年)までさかのぼることができる。建設省から予算を受け、実験モデル都市としてホスト機による地理情報システム「UIS」の開発に取り組んだのがそのスタートである。当時、データベースの設計・構築に問題点が多く、この第1次開発は失敗に終わる。

その後、84年に第2次開発に着手。まず、標準的に使える位置座標方式を確立するため、住所コードを備えた独自の「宛名データベース」を構築した。この「宛名データベース」は、後にオリジナルのベクトル地図を開発する上で大きな足がかりとなる。

第2次開発によるシステムは、87年より本稼働を開始するが、現場からの評価は得られず、そこへ開発業者の撤退が追い討ちをかけた。膨大な労力と予算を投入したにもかかわらず、計画は事実上頓挫。このホスト中心型のGISは、消滅の危機を迎えた。

そこで情報システム課では、何とか経費をかけずにそれらのデータ資産を生かしながら、日常業務で使えるGISを自力で作れないかと、92年から業務用GISアプリケーションの検討を開始した。ここで、急浮上したのが、PC上で手軽に使えるMapInfoである。

水面下でホスト機の地図データのコンバート作業などを続け、翌93年にMapInfoを使った「町別ランキングマップシステム」と、インフラとしての業務情報ネットワーク「NAIS-NET」を完成。この間約2年をかけて構築されたのが、独自のレイヤ構造を持つベクトル地図データ「西宮市DM1/2500地図」だ。これを機に、システムを庁内へ開放し、新たに「現場が使えるGIS」を前提とした全庁的利用の検討を開始したのである。

阪神大震災は、そうした検討の最中に起こった。その経験を経て、全庁型システムによる行政情報基盤の整備に拍車がかかった。2000年、旧「NAIS-NET」は、各種の業務情報と地図データの活用を実現する、グループウェアを中核とするWeb技術を駆使した新しいイントラネットシステムとして生まれ変わった。

行政情報と地域情報サービスを統合する「NAIS-NET」

(総合システム概要)

(総合システム概要)
現在、西宮市のシステムは、

  1. メインフレームまたはCSSによる多数の業務別システム
  2. それらの業務システムをオンラインで統合管理する「総合住民情報システム」
  3. 財務会計・人事・給与などを管理する「内部情報システム」
  4. 住民向け情報サービスを提供するWebシステム
  5. 「総合住民情報システム」の業務情報とWebサービスとを統合するイントラネット「NAIS-NET」
の計5種類のシステムで構成されている。

大震災以降、西宮市にとって最も大きな課題となっているのは、大打撃を受けた財政予算である。赤字財政というより、もはや破綻寸前という状態が延々と続き、8年目の今年、総人口は何とか震災前の状態まで回復しているものの、累積した赤字財政によりいまだ困窮状態が続いている。そうした中で、やるべきことは山とあってもシステム開発に予算は割けない。そこで情報システム課では、徹底したコスト削減を実践し、これらのシステムやサービスをすべて自力開発している。

そんな中で開発されたこれらのシステムは、驚くことに、各種業務システム上で管理されている住民基本台帳、戸籍、国民健康保険や年金、福祉・介護保険関連、都市計画、医療助成・税金・財務関連、教育関連、例規・統計情報、防災・災害関連業務、環境管理などの主な行政情報のほとんどが、2の「総合住民情報システム」によって統合・オンライン化されている。

さらに、5のグループウェアをコアとした「NAIS-NET」には、

  1. 西宮市のホームページ
  2. 会議録検索システム
  3. 例規集検索システム
  4. 地図案内サービス「道知る兵衛」
  5. 情報ハイウェイ
  6. 気象情報システム(MICOS)
  7. 電子メール
  8. 電子掲示板
  9. キャビネット
  10. 財務会計ファイル転送
  11. 情報サービス
  12. 会議室予約
  13. 福祉GIS
  14. 地域安心ネットワーク
などの多様なアプリケーションが用意されており、「総合住民情報システム」との横連携により、部門間における業務情報の共有化が図られているのである。

「いまのIT技術をもってすれば、コストさえかければどんなすごいシステムでも作れます。そうした先進的な自治体も実際にある。しかし、問題はその中身の情報コンテンツをどこまで整備できるかです。その意味では、全国一充実していると自負しています。基礎情報である住民記録や保険・医療・福祉関連の情報は全てオンライン化されています。したがって、必要に応じて機能をいくらでも拡張することができる。転入・転出届けなどの電子申請をはじめ、窓口の手続き上の問題が解決されれば、いつでも電子行政に対応できます」

一方、地理情報については、都市計画/土木管理/設計開発指導/防災関連/下水道管理/情報システム/情報センター、の各システム上に計6台のMapInfo® Proが導入されており、インターネットとイントラネットのコアサーバー上にある2つのMapXtremeと連携し、地図関連のデータを統合的に管理している。これらの業務情報や地図データは、「NAIS-NET」の業務アプリケーションを通じて、必要な時にブラウザ上から簡単に検索・参照することが可能だ。

「MapInfoは、PC上で手軽に使えるというだけでなく、アプリケーションを開発する上でも非常に使い易い。MapBasicやMapXさえ使いこなせれば、難しい作り込みも容易にできます。他のGIS製品も検証しましたが、その点ではMapInfoには敵いません。欲を言えば、PC用ソフトとしては価格がまだ高い。もっともっと安く提供してもらい、他の自治体にも広がればと思います」

地図データ(西宮市1/2500地図データ)は、年1回、独自に更新作業を行っており、常に最新の住宅地図や都市計画図、街区地図などを利用できる。例えば、災害時や緊急時にはイントラネットから即座に住宅地図を呼び出して、世帯員情報や緊急連絡先を確認したり、最寄りの医療機関や介護センター、消防署などと連携し、行政として迅速且つ適確に対応することが可能である。この機能を活用し、現在、独居高齢者の健康情報や介護センター情報などを管理する新しいアプリケーションを開発中である。

豊富なマッピング機能を搭載した「道知る兵衛」

さて、地域情報化事業としてのWebサービスについてだが、同市の地図を多用した盛りだくさんなサービスは、GIS業界でも注目の的だ。具体的なサービスメニューとしては、「NAIS-NET」の1)?6)のメニューがそれに相当するが、こちらは庁内の業務用。表札や世帯情報などの個人情報に関わる部分が多いため、検索できる地図や機能を絞り込んだ、全く別のWebシステムが構築されている。簡単にその内容と経緯をご紹介しておこう。

市として、Webサーバーによる情報サービスが本格化したのは97年のことだが、地域情報化事業の一環として、通信ネットワークによる情報サービス事業に乗り出したのは86年頃のことである。

89年、住民向けDBサービスとしてパソコン通信サービス「情報倉庫にしのみや」を開局したのを皮切りに、91年には、NTTタウンページの施設情報を掲載した最初の地理案内サービス「道知る兵衛」を開発。その後98年に、Web化に伴ないこの両サービスを自治体セキュア接続サービス「情報Highway」として統合、新たなスタートを切った。また地域の産業向けに、Web上から都市計画基本図をベースとした用途地域図などを閲覧できる、「都市計画情報サービス」も同98年に立ち上げている。

ちなみに、最初の「道知る兵衛」にはマップサーバーとして旧MapInfo Pro Server(現在のMapXtreme)が採用されており、地図の拡大・縮小はもちろん、住所・町名・施設名・業種・電話番号など多様なキーワードによる地図検索、ポイントの属性表示ほか、ブラウザからのユーザ情報登録、2点間距離計算など、豊富なマッピング機能を備えている。

これらの情報サービスは、いずれも自治体としては全国初の試みだ。中でも、98年に公開された地図案内サービス「道知る兵衛」と「都市計画用途地域図参照システム」を搭載したホームページは、99年度・全国優秀情報処理システム賞(地方自治情報センター主催)を受賞。当時は、企業のWebマッピングサービスとしてもまだほとんど例がなく、GIS分野でも話題となったのを記憶している人もいるだろう。

“見て、触って、学んで、使う”多彩なWeb情報サービス

(検索画面図)
「高齢者安心ネット西宮」介護サービス事業者の
検索画面(上)と検索結果画面(下)
現在、西宮市のホームページは、情報量の多さもさることながら、名所や施設案内はもとより、水道工事の工事位置の案内図まで、実にさまざまな形で地図情報を利用できるようになっている。その中から、非常に機能的でユニークなサービスをいくつか紹介しておこう。

一つは、介護保険制度導入に伴ないスタートした「高齢者あんしんネット西宮」である。これは介護保険制度に関わる手続きや窓口の案内、介護サービス事業者に関する情報提供を目的としたサービスで、「介護サービス事業者の検索」メニューから住所や検索条件を入力するだけで、住宅地図を使って在宅サービスや施設サービス事業者を検索したり、施設の空き状況などの詳細情報を参照することができる。

また、選挙の投票・開票所情報をインターネットから照会できる「選挙の窓」という新サービスが7月から本稼働を開始する。このほか、健康情報と連携し、定期検診をはじめ緊急時や災害時に素早く医療施設検索やルート検索ができるような新しいアプリケーションもほぼ完成しており、各部門や医療機関との調整を行なっている最中である。

「コンセプトは、“見て、触って、学んで、使う”です。これからのWebサービスは、地図はもはやあって当たり前。情報基盤はすでに整っているわけですから、いかに生活に密着したサービスを提供できるかはアイデア次第ということになります。しかし、本当に役立つサービスを実現するには、技術だけでは解決し得ない問題も残されています。とくに情報公開に関しては、官民が一体となって本気で取り組まなくてはならない。そこが我々にとっても今後の大きな課題です」

WebとGISを広く業務で活用するためには、情報の横連携は不可欠である。西宮市は、それを実践してきた数少ない自治体の一つとして、IT化のためのコンサルティングやトレーニングも実施している。自治体は、それぞれさまざまな事情を抱えているが、今後は電子行政実現に向け、そうした課題をいかに解決していくかが大きな鍵になりそうだ。



西宮市情報システム課

所在地: 〒662-8567 西宮六湛寺町10番3号
TEL: 0798-35-3523
URL: http://www.nishi.or.jp/

MapInfoパートナー紹介

三井造船システム技研 株式会社

所在地: 〒261-8501千葉県千葉市美浜区中瀬1-3 幕張テクノガーデンD棟9F
TEL: 043-274-6181
事業内容: ソリューション事業/ITサービス事業/マップソリューション事業/エレクトロニクス事業
URL: http://www.msr.co.jp/